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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)429号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由第一、二点について、

原審認定の事実によれば、債務者毛利末吉は、被上告会社に対する債務を担保するため、本件物件の所有権を同会社に譲渡したというのであつて、一種の譲渡担保を設定したものと認められるが、民法五〇四条にいわゆる「担保」には、かかるものをも包含すると解するのが相当である。そして右物件は、債務者毛利が被上告会社から無償で借り受け、自ら使用していたところ、健康保険厚生年金保険料の支払を怠つたため、久留米社会保険出張所の滞納処分により、昭和二四年一二月及び同二五年三月の二回に亘り差押を受け、同月一三日公売せられたことは、原審において当事者間に争のなかつたところであるから、債権者たる被上告会社は同条の担保を喪失したものというべきである。然らば、右担保の喪失について、被上告会社に故意又は懈怠があつたとすれば、本件債務の保証人である上告人は、代位により償還を受けることができなくなつた限度においてその責を免れることとなるが、右法条にいう故意又は懈怠とは、民法の所々に散見する故意又は過失とその意義を同じうするものと解すべきところ(大審院昭和八年九月二九日言渡判決、民集一二巻二四五二頁参照)、原審の確定した事実によれば、被上告会社は差押を放置したものではなく、前記出張所に対し、数回に亘り事務員を遺わし、或は代表者自ら出頭して、差押物件が同会社の所有であることを証明する裁判上の和解調書を呈示してその解放を求め、更に同月八日には和解調書を添え文書を以て差押の解放を求めたけれども、同出張所はこれを却下し、右物件は遂に公売せられたというのであつて、被上告会社は、債権者として通常とるべき手段を講じたものというべく、被上告会社には、なお厚生年金保険法による厚生年金保険審査会に対する審査の請求及び一定期間内における行政訴訟提起の途があり、同会社がその途に出でなかつたからと云つて、被上告会社が前記担保の喪失につき過失の責を負うものと解することはできない。原判決には所論の如き違法なく、論旨は理由がない。その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官井上登は本件合議に関与しない。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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